わたしが18才、彼が23才の春のことです。お互いにまだ学生で、新しくはじめたバイト先で出会いました。
同じバイトといっても、わたしはお昼や夕方のシフトで彼は深夜のシフト。ほとんど顔を合わせることはありませんでした。
でもたまにシフトが一緒になると嬉しかったんです。いま思えば、わたしの一目惚れだったのだと思います。
女子高を卒業したばかりの私は、男性にあまり免疫もありませんでした。1度だけ、友達の紹介で1つ年上の人と半年ほど付き合いましたが、それっきりです。
そこに現れた、年上の男性。イケメンで話も上手い。時にはわたしをおだてたり、時にはわたしをからかったり。遠回りなのに「ついでだから乗っていけば」と家に送ってくれる優しさ。大人の余裕と無邪気な笑顔。もう好きにならずにはいられませんでした。
彼女(当時はまだ未婚)がいることは、まわりの話で知っていました。でも気持ちは止められなかったんです。
翌年のバレンタインのことです。わたしは意を決して、彼を呼びだしました。
彼は4月から就職するので、間もなくバイトを辞めることが決まっていました。もう当たって砕けろ!です。 でも彼女がいるのに、バレンタインにわたしに会ってくれる。期待せずにもいられません。
この頃には二人で、夜のドライブが定番になっていました。彼が運転好きだったので、目的も決めずに走ります。
ある日は夜景を見に行ったり、別の日には海を見に行ったり。何もない道を、まっすぐに走るだけの日もあります。車の中ではいつもジュディマリを熱唱。ジュディマリ好きがふたりの共通点です。
この日もドライブをして、家の近くまで送ってもらいました。
そこで、前日に徹夜して作ったチョコブラウニーを渡しました。「もうバレてると思うけど、わたしの気持ちだよ」って。
彼は無言で包みを開けてチョコブラウニーを一口食べると、そのまま無言でキスしてくれました。甘くてとろけそうなキス。
でも結局彼は何も言ってはくれませんでした。 間もなくして彼はバイトを辞めましたが、定期的に会う日が続きました。
そのうち体の関係もできましたが「つき合って」と言われたことも、言ったこともありません。彼女のことを本人に聞いたこともありません。確認して彼の口から聞くことが、恐かったんです。
都合の良い女だとわかっていても、その時は彼といられることが幸せだったんです。
あのバレンタイン1年ちょっとが経ち、わたしも就職しました。環境も変わったことで彼との関係に疑問を持つようになり、だんだんと連絡が途絶えていきました。
はじめての仕事は覚えることも多く、職場や合コンなどで出会いも広がり忙しい日々を送っていました。
そんなある日、ひとづてに彼が結婚したことを知ったのです。
「ほんとに!?」という驚きと「やっぱり・・・」という悲しみ。わたしは彼を忘れたことなんてなかったのに・・・。
その日は朝までカラオケで、ジュディマリを歌いながら飲みまくりました。 そんなショックも忘れかけたある日、彼から連絡きたのです。
定期的に会っていたあの頃となにも変わらないかのように、ごくごく自然に。
「結婚したんだよね?」と聞くと「ああ、うん。それでさ」と違う話に持っていかれました。
わたしは本当にバカです。あれだけショックを受けたのに、また彼と会うようになりました。
本当は心のどこかでずっと会いたかった、その気持ちが止められませんでした。まだ、彼が好きだったんです。
彼には妻と産まれたばかりの男の子がいたようです。「いたよう」というのは子どもが産まれたことも、ひとづてに聞いたからです。
彼は家庭の話を一切わたしにはしません。わたしはそれを彼の優しさと捉えていました。
当時は奥様に対する罪悪感もありませんでした。むしろ、どこかで優越感に浸っていました。「妻の知らない姿をわたしは知っているのよ」というような。
今になって思えば、バカな考えです。
「彼女」としてちゃんと付き合い、彼の「妻」になった女性の方が、わたしより何十倍も彼のことを知っているのです。そして愛され、大切にされている。
わたしは彼の「彼女」にさえもなれなかったんですから。
密な時は1週間に1度、そうでない時でも1ヶ月1度ぐらいは会っていました。
お互いの仕事終わりに、ドライブしてホテルで休憩がお決まりのコースです。
独身の頃との違いは、ドライブが彼の車からわたしの車に変わったこです。どこで誰が見ているかわかりません。とくに車好きのひとは、知人の車を一瞬で発見しますから。彼の車は職場か、目立たないところに停めておきました。
あとメールもしたことがありません。連絡は電話です。着信履歴を消すと穴ができます。
発履歴は穴埋めができるので、基本は彼からの電話待ちです。
わたしから電話したい時は、彼の仕事用の携帯にかけていました。都合のよいときに、私用の携帯から折り返しがきます。
妻なら通話明細ぐらい取れることは、その当時は考えてなかったです。
イベントはすべて完全スルーです。これは諦めていました。 でも夏には海水浴にも行ったし、冬にはスノーボードにも行きました。
彼が奥様になんと言い訳していたかは、知りません。
彼といる時は、ほんとうに幸せで「妻帯者である」ことなんて忘れてしまうんです。
だけどひとりになると、周りに話せないこと昼間のデートができないことなどが悲しくなって、泣きたくなります。 付き合いが長くなるほど、後者の気持ちが強くなっていきました。
大好きだから一緒にいたい。
でも決してわたしの物にはならない。どんなに側にいても、ひとつになれない。 離れたくない。だけど、一緒にいると虚しくなる・・・。
不倫がはじまって、2年が過ぎようとしていました。 ふたたび連絡が途絶えがちになった頃、いまの主人に出会いました。
主人と出会ってわかったんです。彼との関係は、ずっとわたしの片想いだったんだなって。 それから、彼とは連絡をとっていません。
当時はバレるとも思っていなかったので、慰謝料なんて考えていませんでした。 今でも不倫がバレるのは「おバカさん?」と思ってしまいます。
いまの主人が不倫したら・・・因果応報だなどと諦めませんよ。頂けるものは頂きます!
(麻衣 28歳)