私が彼と出会ったのは、23歳の時でした。当時、私は札幌のラジオ局でレポーターやウェディングパーティーのMC、イベントMCなどをしていました。
その日のお仕事は、東京のクライアントからの依頼で現場ディレクターも東京の制作会社の方が来るという話を聞いていました。
当日、現場に入ると、いつも以上にピリッとした空気に、新人の私は完全にビビってしまいました。そこに優しく声をかけてきてくれたのが、 その当時お付き合いしていた彼です。
小太りで、身長は170センチ。決してかっこよいとは言えないルックスです。
現場は朝8時からリハーサルが始まり、本番は15時から。終了するのは20時です。かなり長丁場でした。リハーサルが終わると、休憩時間があり、私は、休憩室で原稿を読み込んでいると彼がやってきて、いろいろなお話をしました。
長丁場でしたから、彼から指示やアドバイスをもらっている間に少しずつ距離が縮まっていきました。
その時の彼は、東京でイベント制作会社の社長をしている。札幌には月1くらいで来ているということ。今までのお仕事の内容等・・いろいろな事を話してくれました。
イベント制作会社の社長なんてすごい。しかも東京で! 一気に憧れが強くなり、もっと話を聞きたいという気持ちが高くなりました。
本番が始まり、彼とはほとんど話が出来なくなってしまいました。私はいつか東京に進出したいという気持ちがあったので、連絡先を絶対にゲットしようと決めていました。
無事現場が終わりスタッフのみなさんにあいさつをしていると彼が、「札幌でどこかおいしいお店知ってる?」と声をかけてきました。
私はチャンスだと思い「みなさんで行かれるんですか?おすすめのお店沢山あるので、メールでリンク送ります。アドレス教えてください」と伝え、連絡先をゲットしました。
彼とは、そこで別れ、私は帰ろうと駅に向かって歩いていきました。 彼にいくつかのお店をピックアップしてメールを送ると・・。「実は○○さん(私の名前)と行きたくて、聞いたんだよね。もう帰っちゃう?」と来たんです。
私は、待ってましたとばかりに、彼に連絡をし、待ち合わせをして落ち合いました。
基本的に、事務所に所属しているMCと現場のディレクターが個人的に連絡を取ることはよしとされていないので、私に声をかけれなかったそうです。
私のおすすめのお店へ二人で行き、いろいろな話をしました。年齢を聞くと私より11歳年上で、結婚していることを知りました。
でも、私は彼にとっても惹かれてしまっていたのと、当時は若く東京への憧れで、会ったその日のうちにホテルへ行ってしまいました。
彼とお泊りした次の日、空港までお見送りをして別れました。
彼は、奥さんがいて、私は悪いことをしてしまったと深く反省し、なんともいえない罪悪感に襲われ、好きになりかけてしまっていたが、もう会う事しないと決めていました。ましてや、札幌と東京です。こんな1度だけの関係が長く続くということは、絶対にないと思っていました。
しかし、彼から次いつ会える?札幌に会いに行くよと連絡が来たのです。
私はうれしい気持ちと結婚しているのに信じられないという気持ちで、なんだか混乱してしまいました。冷静に考えろ!と自分に言い聞かせましたが、また会いたいという気持ちが強くなり、連絡をしてしまいました。
それからは、毎日連絡がきました。週に3回は電話をして、お互いの仕事の事を話しました。同業者だったので、アドバイスもたくさんもらったし、お仕事では指名をしてくれました。
本当はいけないと思いながらも、なんだか二人だけの秘密というところに浮かれていました。
彼とは月1回会っていました。奥さんにバレない為に私から、電話はしないようにしました。電話したいときは、彼にメールをしてから電話をしました。
クリスマスやバレンタイン、年越しなど、大きなイベントには必ず彼が札幌に来てくれました。
一度だけ、奥さんにバレないの?と質問しました。
彼はもともとイベント制作会社で、街中がお休みやイベントごとの時には必ず仕事のため、奥さんは怪しむことは全くないと言われました。
さらに彼が社長のため、スケジュールも彼次第で、とにかく自由な人でした。
会うときは、私の家が多かったです。長い期間、彼と過ごせたときは、一緒に北海道でドライブをしたり、時には私が東京に行ったり、一緒に東京観光をしたり、本当にいろいろ楽しみました。
東京は危険なので、1,2度しか行ったことはありませんでした。
彼は私を第一に優先してくれていると感じていたので、不安に思ったことはほとんどありませんでした。
でも、長くは続かない結局は奥さんが一番大切、私は2番目、結婚することも、この先一緒にいることも絶対にないと、少し冷静になっている部分がありました。
私と彼は、恋人関係になってから1年ほど経ちました。
その時に、彼から東京に出てきて、うちの会社で働かないと言われました。とてもうれしくて、もしかしたら、彼の奥さんに勝てるかもという気持ちが少し湧いてしまいました。
でも、すぐに冷静になりお断りしました。
彼は1年間わたしと会っていながらも奥さんとの生活を送っていた。
それは奥さんを選び続けているという事と認識してましたし、奥さんを不幸にしたいという気持ちは全くありませんでした。
きれい事ではありませんが、このまま楽しい思い出で、彼とは終わろうという気持ちと、もし、ばれた時に自分の立場が危うくなる。
慰謝料を請求されたり裁判沙汰になっては困るし、私は誰にも彼との関係について話していなかったので、そういったことになるのはイヤと思ってました。
彼からの東京のお誘いを断ってからは少しずつ連絡を取り合うことが減ってきて、自然消滅してしまいました。
連絡を取らなくなったのは私の方からです。彼からは、連絡をしなくなってからも半年ほどはたまにメールが来ていました。
返信すると、また関係が始まってしまうと思い、連絡は私から控えました。でも、決して嫌いになったわけでもありません。またお仕事の話したいなって思う事もいまだにあります。
今も元気でいてくれたらと思います。私が彼との過ごした日々を良い思い出と思えるのは、彼の奥さん、彼の仕事の関係者、私の友人、私の仕事の関係者など誰もこの関係を知らなかった。
なにもお互いの生活に変化が起きていないという事で、きれいにお別れすることが出来たのだと思います。
自然消滅は、良い別れ方とは言えませんが、彼との過ごした日々は良い思い出となりました。決して許されえることをしたわけではありませんが、彼が今もお仕事を頑張っているのを祈っています。
(美咲 28歳)