不倫、彼の家庭の幸せを壊す覚悟はなかった。

〔広告〕
 

不倫出会い

あれは私が27歳の時でした。

 

とある行きつけのアジア料理レストランでの小規模な国際交流パーティーで、彼と出会ったのです。彼は外国人で、アジアのとある発展途上国から来た方です。

 

たまたま席が近かったこともあり、私達は互いに自己紹介をしつつ雑談をしました。彼は日本語がかなりうまく、会話に不自由はしませんでした。

 

その時彼は一人で来ていましたが、どうやら日本人の奥様と息子さんがひとりいるそうです。

 

いい人そうだったのと、何より私自身が彼の国に興味があったので、連絡先を交換することにしました。彼は快く応じてくれました。

 

外国人との連絡交換はだいたいfacebookが主流です。その時の私達も例に漏れずfacebookのIDを交換しました。

 

次の日、彼からメッセージが届いていました。 「昨日はありがとうございました。kotaeさんのUPしてる写真はめっちゃ綺麗ですね。まだ見終わっていない!僕の写真無しのフェースブックめっちゃつまらないですよね。ごめんなさいね」 ところどころ変な日本語はあるものの、漢字もちゃんと使っていて、文章もそんなに変じゃないし、この人かなり日本語勉強しているんだなと感心しました。

 

不倫

それから何度か食事に行きました。

 

彼はかなり謙虚な性格のようで、初めのほうは 「僕みたいな変な外国人と一緒にご飯行ってもらって大丈夫ですか?」 「kotaeさん迷惑だったら言ってください」 など、かなり気を遣っているようでしたが、私が 「そんなことないです。あなたと一緒に話していると楽しいし、勉強になることばかりです。あなたと友人になれてよかったと思っています」 と繰り返し話しているうちに、だんだん向こうからも誘いが来るようになり、いつしか月1,2回は会うようになっていきました。

 

彼は会うたびに 「僕は日本に来て4年も経つけど、ネガティブな性格のせいでまだ友達が出来ません。あなたがこうして会ってくれて本当に嬉しいです」 と笑っていました。

 

そんな日々の中で、彼からは色んな身の上話を聞きました。

 

彼は現在39歳。過去に事情があって、10代の頃仲間と共に別の国に無許可で渡ったことがあるそうです。2、3年後何とかして帰ろうとしてみたもののそれは叶わず、結局家族と会えないまま15年間その国で暮らしたそうです。

 

20代の頃、たまたま観光でその町を訪れた奥様と出会い、恋人同士になり、それから10年間奥様が半年ごとにその国を訪れ、国際恋愛を続けたそうです。

 

やがてその町で結婚式を挙げ、子供が生まれてすぐに日本に引っ越したとのことでした。

 

彼のあまりに波乱万丈な人生話に開いた口が塞がりませんでしたが、同時に魅力を感じている私がいました。

 

普通の人は持っていない経験や苦労を知っている人なのだと思うと、それだけでなんだか彼が特別に見えたのです。

 

それから一年程たった頃です。その頃私は仕事や私生活のストレスから鬱症状に陥ってしまっていました。

 

毎日自殺したいという思いが頭から離れず、日々暗い気持ちで生活していました。

 

ある日私は思い切って彼にそのことを打ち明けてみたのです。 彼はそこから電車で2時間程かかる場所にいたにも関わらず、メールをしてすぐに電車に乗って駆けつけてくれました。その頃にはもうLINEの交換をしていました。

 

彼は着くまでの間、絶え間なくメッセージや電話をくれ、大丈夫ですか?すぐ行くから待ってて!と励まし続けてくれました。

 

そして二時間後、私達は駅で落ち合いました。彼を見た瞬間私は涙が止まらなくなり、思わず彼に抱きついてしまいました。「なんで来てしまうんですか・・・あなたはなんでそんなに優しいんですか・・・」こんなドラマのようなセリフを言ったのは初めてでしたが、その時の私の本心はそれでした。

 

どうしてこんなにも年の離れた国籍も違う私のためにここまでしてくれるんだろうかと、私は感情の高ぶりを抑えることが困難でした。

 

 

公園デート

そして二人で公園に行きました。私達の他にはサラリーマン三人組が遠くのベンチで楽しそうにビールを飲んでいるぐらいで、周辺は誰も通らず静かでした。もう暗くなりかけていました。

 

私達はベンチに座って、しばらく黙っていましたが、彼がポツリポツリと話し始めました。 「だめだよ、死ぬとか考えちゃ。kotaeさんはいい国に生まれて、教育も受けたんだから。僕は学校にも行ったことないよ」 私は何と答えていいか分からず黙っていました。

 

「僕もね、実は前に何度か死のうと考えたことある。恥ずかしくて言えなかったけど、今の職場でずっと苛められてる。変な外国人だと馬鹿にされてる。でもそれで諦めたら全部終わりだから」

 

私は驚きました。今まで全然そんなこと知らなかったからです。と同時に、最初のほうの彼の言葉を思い出しました。 「僕みたいな変な外国人とご飯行ってもらって大丈夫ですか?」 そうか、そうだったんだ。

 

彼がやけに気を遣ったり自分を卑下するようなことを言っていた理由が、この時やっと分かったのです。 「なんで・・・言ってくれたらよかったのに。私達友達なのに。何でも言ってよ。私何でも聞くから。あなたの力になるから」 私が涙を浮かべてそう言うと、彼は笑って言いました。

 

「kotaeさんはいつも僕のこと沢山助けてくれてるよ。会ってくれて、ご飯行ったり、楽しい話したり、僕はそれで沢山救われた。だから死なないでほしい」 そう言いながら彼は私を抱き締めました。

 

私も彼にしがみ付いて、しばらく黙ってずっとそのまま時間が過ぎていきました。 サラリーマン達の楽しそうな声がやけに響いて聞こえます。遠くで電車の音も聞こえます。

 

電車の音でふと私は現実に引き戻されました。

 

「・・・ここから二時間かかるんだよね?」

「うん・・・」

「・・・もう帰らないと」

「うん・・・」

「奥様が・・・」

「うん・・・」

「でも・・・もう少しこのままでいいですか?」

「うん・・・いいよ」

 

それから彼は私の額に自分の額をくっつけてきて、私達はそのままキスをしました。

 

肌寒い夜だったけど、その瞬間は体がポカポカして、ああ幸せだなぁと思ったのです。

 

そんなことがきっかけで、私達は秘密の恋人になりました。

 

連絡手段は専らLINEでした。私は奥さんにバレるのではないかと心配して彼に聞いたところ、ナンバーロックをかけているから大丈夫と言っていました。

 

不倫海デート

会うのは月2,3回程、空いた時間にランチ、ディナーに行ったり、たまに休みが被った日にデートスポットに行き、二人で海をのんびり眺めたりしました。

 

彼の家は共働きで、奥様とは休みがバラバラだったので、一緒に出掛けたことがバレることはありませんでした。

 

クリスマスやバレンタインデー等のプレゼントは、一見友達にも送りそうなものをと思い、日本語教材本をプレゼントしたり、旅行のお土産なので是非家族で召し上がって下さいと奥様には言っておいてねと彼に念押しして大き目のチョコレートを渡したりしました。

 

彼からのプレゼントは、その時ちょうど旅行に行く予定だった行き先の国のガイドブックでした。 結局ホテルに行って堂々と不貞を侵すような度胸は私にも彼にもなく、関係は最後までプラトニックでした。

 

彼との付き合いで幸せと感じることは沢山ありました。

 

私達は運命で結ばれていると本気で思っていましたし、唯一心から繋がっている人だとも思っていました。

 

そんな人にこの人生で出会えたことを本当に幸せに思いました。何もかもが輝いて見え、毎日が本当に楽しかったのです。

 

しかしながらそこまで考えた時、壁にぶち当たるかのようにいつも「彼は妻帯者なのだ」ということを思い出し、そうするとやはり心中は辛い気持ちでいっぱいになりました。

 

彼と奥様が10年間の遠距離恋愛を経て結婚したことも、彼があんなにも日本語がうまいのは全て家族の為なのだいうことも知っている私にとって、奥様は到底勝てる相手ではないことは痛い程よく理解していました。

 

また、何度か遊んだことのある息子さんに対しては一番罪悪感を感じていました。自分がとても汚れた存在のように感じたものです。

 

この三人の幸せを、私の我儘で壊すわけにはいかない。その思いは日々私の中で大きくなっていきました。

 

そして交際が始まってから半年後、私は意を決して彼に「友達に戻りませんか?」と言いました。

 

自分の気持も全て彼に伝えました。 彼も納得したようで「僕にはもう奥さんがいるから、悲しいけど仕方がないね」と言いました。

 

それからは一度も会いませんでしたが、二か月程経った頃、私達は些細な事で喧嘩をして、それっきり連絡を取らなくなりました。 というのも、私の鬱症状が再び出てしまい、まだ彼に甘えがあった私は彼に電話をしてしまったのです。

 

彼は初めは話を聞いてくれていましたが、そのうち面倒臭そうに「もう分かったよ。今忙しいから」と言って一方的に電話を切ってしまったのです。

 

私はその時正常な判断力を失ったまま、ただ怒りに任せ、 「友達だって言ったくせに、途中で切るなんて最低。もう連絡したくありません」 とメッセージを送り、その勢いでLINEもfacebookも消してしまったのです。

 

今思えばそれでよかったのだと思います。

 

友達に戻ろうと言ったって、一度そうなってしまったものを元に戻すなんて所詮出来ない話なのですから。

 

あの頃は不思議なことにあまり考えなかったのですが、奥様から謝罪や慰謝料を要求されたら一体私はどうするつもりだったのか、今思い返すとゾッとします。あまり考えなかったということは全く覚悟も何もなかったわけですから。

(kotae 30歳)

 

目次